事例に学ぶ事業承継

わたしたちがこれまでにお手伝いをさせていただいた事例のご紹介をします。

事業承継だけは、独力にこだわるべきでない。

「自分たちだけで何とかする」からの脱却を図った、承継計画の策定。
業種 製造業 業務内容 空調設備部品の製造・販売
創業 1968年 従業員 10名(パート・アルバイト含む)
代表者年齢 72歳 地域 西三河
資本金 1,000万円 売上高 約9,645万円
業種 製造業
業務内容 空調設備部品の製造・販売
創業 1968年
従業員 10名(パート・アルバイト含む)
代表者年齢 72歳
地域 西三河
資本金 1,000万円
売上高 約9,645万円

1.事業継承に至った経緯

現社長の先代が創業し、現社長の代になって約40年余り。もともとは、下請けの加工業として営んでいたが、大手自動車部品製造業で技術開発に従事していた現社長が、「自分たちの商品で勝負しないと面白くない」という気持ちから、代替わり後早々に一念発起して業態転換。方々に調査を重ね、ニーズを発掘し、毎夜遅くまで試作を重ね、「これだ!」と現在の主力製品となる、空調設備部品の開発に成功する。その後、地道に営業を重ね、名古屋デザイン博覧会や業界紙に取り上げられることで知名度を上げてきた。現在は、既存商流は代理店販売を中心にし、自分たちは大手ゼネコンやデベロッパーと連携しながら、「現場の困りごと」に耳を傾け、製品改良・開発などの技術営業を行っている。また、それらの経験値を守るべく、特許取得も行ってきた。
そのような苦労を重ねる中で、モットーにしてきたのは「自分のことは自分でする」という姿勢。現在、当たり前になっているような「税務は税理士へ」「労務は社労士へ」といった専門外の業務ですら自前で行い、徹底してコスト流出を抑えてきた。この判断は、今までであれば「そういうノウハウも、内部資源になる」として強がることもできたのだが、昨今のリーマンショックや新型コロナウイルスなど、価値観が大きく変わってしまうほどの環境激変を前にしては、なかなかそれも言っていられない。そのような反省に立つ中、現社長も年齢を感じるようになり、「事業承継だけは、専門家の知恵を借りよう」と、金融機関の担当者を通じて当機構の門戸をたたくことにした。
事業承継においては、後継は2人の息子。長男は営業畑出身で製造・開発は不得意。次男は製造の経験はあっても、体系だった知識は持ち合わせていない。経理や事業管理にいたっては、独学のレベルなので、教える側にしても不安。「何から、どのように始めたらよいか…」と日々漠然とした不安を抱える中、当ネットワークとしては「経営承継は数字に明るい中小企業診断士、財産承継は経営に理解ある税理士」という支援チームを組成することによって、包括的な相談に応じることとした。

2.事業承継における現状

5回の専門家派遣においては、各専門家が「お互いの領域にとどまらない」ことを意識し、連携しながら現状整理・課題設定・実行計画策定を図りました。

ヒトの面
・後継の役割分担は、代表が長男、工場長が次男で確定(意思確認も、専門家協議内で実施)
・成長戦略を描くうえでは、「番頭格づくり」が大事(組織の内外は問わず。「話せる関係」の人を作る)
・家族経営を継続。工員は非正規社員の形態を維持。

カネの面
・管理は厳格に。まずは、粗くとも「製品原価」から。(支援の中では、実際に原価算出のワークを重ねる)
・月次損益は、デバイス更新も含めて翌月中旬には出す(既存システムの制約や、クラウド会計などの対応も)
・現在の自社株評価から見て、株の承継は生前贈与で(簡単な相続試算をもとに。承継額は人事評価要素も)

ノウハウ(知的資産)の面
・「まずは、苦境に耐える」それまでは、業態は維持(現社長への報告は密に。後継の主体性を優先)
・耐えた後は、「自分たちのやりたいこと」をやれ(世代、人で特性が違う以上、変えるべきは変えろ)
・戦略にあった「学び」は、積極的に外へ求めよ(有効な外部の知見は、率先して取り込むべし)

専門家による支援を受けるまで、正直な話、現社長には反省や意欲が見られるものの、後継の2人は主体性が感じられず、「厳しい親父があれこれ言うから…」といった表情で臨んでいる印象でした。ですが、各専門家から、厳しいながらも「どうしていきたいのですか?」という問いかけを受けることで、今後に向けた思いが醸成されていき、終盤においては2人とも目に力を感じるようになりました。

4.サブマネージャーの所感

「親父の苦労を目の前で見ていたからこそ、承継においても親父の意向があってから」という状況が如実に出ている案件だったと思います。後継2名の「主体性」が、事業承継における成否を握る鍵でもあったため、今回のような対話の場づくりは有効に作用したものと思われます。
今後の、後継によるさらなる活躍が期待されるところです。